日々「気付き」はあるか?


先日、会社近くの定食屋で昼食をとっていると、二人の会社員と相席になった。

4人席、私の横に30代と思われる男性が、その反対側に20代前半の若い男性が座っている。

別段聞き耳を立てるつもりもなかったが、会話の様子からどうやら上司部下の関係のようだった。

若い方が仕事の悩みを口にし、それに上司が応じる。

この上司が実によく出来た人で、部下の話を遮ることなく「うんうん」と耳を傾け、要所要所に

「で、〇〇君(名前)はどう思ったの?」

「なるほど、相手はどう感じたんだろうね?」

と質問を投げかけていた。

若手は「このようなケースはどうしたら良いのか?」と聞いているわけで、そういう意味ではこの上司は「質問に質問で返す」ことをしているわけだ。

前の世代にとってこれらの行為は悪癖のような印象があるが、最近の潮流はむしろ逆。

「質問によって相手の思考を深める」ことはコーチングの基礎テクニックであり、質問を繰り返すことで、相手がその答えを口に出し、頭の中を整理し、自ら回答を導き出すことを手助けることになる。

人から断定的に「こうだ!!」と言われたことより、自分で「なるほど、こういうことか!!」と思ったことの方が納得感があり、結果、次の行動に結びつくからだ。

おそらくコーチングを学んだ人なのだろう。

若い方も話をすればするほど自身の考えを棚卸できたようで、問題点を随分と整理出来た様子だった。

このような上司の元では部下も伸びるだろう。

「それは良い気付きだね」

会話の終盤、私もほぼ食事を終えていたころ、30代がそう言った。

その瞬間、20年前に引き戻された。

28歳で外資系の生命保険会社に入り、そこは成績が100%給与に連動する苛烈な競争社会だった。

そのため良くも悪くも社内はサバサバしており、日本の一般的な会社のようなべたべたした慣れ合いは一切ない。

かと言って冷たいのかと言うとそうでもなく、入社して2年間は上司、先輩から相当みっちりと指導される。

特に私の上司は「熱い系」の人で、毎日、仕事が終わると報告の連絡を求めらる。

夜の10時、11時まで商談があっても必ず電話をしなくてはいけないので、当時は鬱陶しかったが、今思えばその上司も夜遅くに部下の電話を受けていたわけで、何ともありがたい話だ。

今日どんな人と会ったのか?どんな商談だったのか?そんな話をする。

そして最後に必ずこう聞かれた。

「今日の『気付き』はあった?」

それに対し、商談でこんな言葉は使うべきではなかった、相手の反応を読み間違えた、等々のことを話す。

その頃は「毎日毎日新しい気付きなんてあるわけねーだろ!!」などと内心、悪態をついていたが、振り返ればセールスという仕事の基礎体力を作ってくれた会話のキャッチボールだった。

今更ながら本当に貴重な勉強をさせてもらっていたと思う。

気付き

年齢とともに減っていく。

ボケっとしている間に1週間が過ぎ、1ヵ月が経ち、1年が終わる。

今日の気付きはあった?

そう聞いてくれる人も、もう周りにはいない。

日々、自分で自分に問うしかないだろう。

そんなことに「気付いた」とても良いランチだった。

先に食べ終え、店を出る。

勘定の際、良い話を聞かせてくれた若者2人分のランチ代も支払いたい衝動にかられたが、それも不気味だろうと思いとどまった。

本日のコラムでした。

 

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6月 15th, 2024 by