保険のご提案をする中で、よく聞かれるものとして
「がん保険と特定疾病保険ってどっちが良いの?」
という質問があります。
本日はこの件について考察してみたいと思います。
第一回は、まずはがん保険がどのような商品構成なのか?そして、がん保険の収支について解説していきます。
1 がん保険とは?
一口にがん保険と言っても各社から様々な商品が販売されていますので、ここでは共通する項目について述べていきます。
まず、がん保険と言うくらいですから「がん」になった時にお金を受け取れることは言うまでもありません。
また、最近ではがんの治療も多様化していることから、以下のようにそれぞれの分野を専門的にフォローする商品も販売されております。
◆ 旧来タイプ(手術+入院を中心にしたもの)
ーガン手術給付金(がんの手術をしたら50万円、等)
ーがん入院給付金(がんで入院したら1日1万円、等)
◆ わりと新しいタイプ
ーまとまったお金を受取り、治療方針は自分で決める
→ がん診断一時金(がんと診断されたら100万円、等)
ー抗がん剤、ホルモン剤治療などに特化
→ 抗がん剤治療特約(治療を受けた月ごとに10万円、等)
ー女性特有のがんに特化
→ 女性がん特約(女性特有のがんの場合、給付金を上乗せ、等)
ー保険適用外の治療に特化
→ がん先進医療特約(がんの先進医療を受けた場合に実費を給付、等)
現在では各社の商品構成にはこれらの「パーツ」を並んでおり、それを組み合わせることでご自身に合ったがん保険を作れるようになっています。
さて、このようながん保険ですが、実際のところ加入するメリットをあるのでしょうか?
検討中の方が一番気になるところでしょう。
この件について、まずお金の面での「収支的な結論」を言ってしまうと、以下のようなものです。
・がんにならなければ大損
・1回がんになるならトントン
・2回がんになれば大幅プラス
がんにならなければ大損、というのは誰にでも分かるかと思います。
がん保険は原則「掛け捨て」ですから、何もなければ何も受け取れません。
そのため、純粋に保険料がマイナスとなります。
注:一部の商品で「後から保険料が戻ってくる」という貯蓄型のがん保険もありますが、それについては文章後半で触れます。
日本人の国民病とも言われるがん。
2人に1人がなると言われていますが、裏を返せば2人に1人は「ならない」わけです。
つまり、なる確率も、ならない確率も高いわけですが、がん保険に加入している場合、当然ながらがんにならなければ何の給付も受けられません。そのため、それまでの保険料は全て捨ててしまうことになるので、その分はマイナスです。
では「がんになれば」得をするのか?と言うと、実際にはそうではありません。
あくまで筆者の経験ですが、1回であればほとんどトントンです。
若い頃にがんになれば、それまでに支払っている保険料の総額が少ない(入ってからの年数が短い)ので、大きな給付金を受け取れば瞬間的には収支はプラスになります。
但し、一回がんを経験した方のほとんどは、その後もがん保険を継続します。
心理的な面を考えれば当然そうなりますよね。
そのため、その後も保険料を支払い続けるので、「支払った保険料」と「受け取った給付金」の差は埋まります。
そのまま2回目のがんを経験しなければ、一生涯を通しての収支はほぼトントンで終えることが多いです。
これは言い換えれば「自分のお金を自分で貰っただけ」ともいえます。
もちろん「どのような商品に入っているか?」、「何歳まで生きるか?」というような不特定要素にも左右されるため、一概に言い切ることは出来ませんが、傾向としては「がん1回では儲かることはない」ということです。
しかしながら、不幸にもがんが再発し、2回、3回と給付金を受け取るような場合。
このケースでは受け取る給付金の総額は、支払った保険料総額を大きく上回ります。
がんの再発や転移の確率はおおよそ18~20%と言われています。(統計などによっても異なる)
そのため、がん保険に入っている人が100人いたとしたら、結果は以下のようになります。
50人 がんにかからず「大損」
30~32人 がんを1回経験し「トントン」
18~20人 2回以上がんを経験し「儲かる」
これらのデータを見た感想は人それぞれでしょう。
「1回じゃトントン。。。20%くらいしか得をしないなら、がん保険は必要ない」と考える方もいれば、「再発こそがんの怖さ。それが20%もいるのか・・・そのような時のためにがん保険に入っておこう」そう考える方もいるでしょう。
こればかりは絶対的な回答はありません。
では最後に貯蓄型のがん保険について触れておきたいと思います。
がん保険の中には、
「ある年齢(60歳など)になれば、それまで支払った保険料の全額が戻ってくる」
という貯蓄型と呼ばれる商品があります。
先に述べた通り、一般的な掛け捨てのがん保険はがんにならなければ大きくマイナスとなってしまうため、これらのがん保険は「がんになならくても損はしない」というコンセプトで販売されています。
実際の商品イメージは以下のようなものです。
保険料 : 8000円/月
保障:がんで入院1万円/日、がんで手術 100万円
注:保障内容が同程度の掛け捨てのがん保険に比べ、保険料は2~3倍に設定されている。
30歳で加入し、60歳まで支払うと、その総額は288万円となり、これが60歳の時に全額戻ってきます(満期金)。
なお、もし60歳までにがんに罹患すれば、その際に上記の給付金を受け取れますが、代わりにその給付金は60歳の時に受け取れる満期金から引かれますので、1,2回がんをやった程度では60歳時点での収支はプラスマイナスゼロです。
いくら給付金を受け取っていたとしても、それは結局自分が積立てたお金だからです。
このタイプの商品は「60歳以降」がポイントです。
先に述べた通り、このタイプのがん保険は掛け捨てのがん保険に比べ、保険料がかなり割高に設定されているのですが、この保険料は満期金を返した後の60歳以降も続きます。
これ以降に支払った保険料は「掛け捨て」になるため、貯蓄型と言っても、厳密に言えば「60歳まで」の話であり、一生涯という長期の目線で見れば、最後は掛け捨てになります。
そして、60歳以降の掛け捨て分に関しては、今まで何度も述べた「ならなければ大損、なれば得」という原則が適用されます。
特にこのタイプのがん保険は保険料が高いため、がん1回くらいではそれでもマイナスになるかもしれません。
以上のことから、貯蓄型のがん保険でもあっても、最終的には掛け捨てのがん保険と同じような収支構造になっていることが分かります。
なお、個人的な筆者の感想を述べれば、貯蓄型のがん保険にはやや懐疑的です。
その大きな理由は「途中解約が出来ない」ということです。
60歳や65歳まで続ければ、確かにそれまでの保険料は戻ってきますが、途中で解約した場合には大きく損をする場合が多く、とにかく途中で方向転換することが出来ないのです。
「戻ってくる」のは元本であり、増えるわけではありません。
保険料も高いことから「がん」のためだけ高額なお金を長期間塩漬けすることが果たして良い事なのか?というのが素朴な疑問です。
また、がん治療も日進月歩で進化しており、それを支える民間のがん保険の保障内容も、治療内容を反映し「進化」しています。
仮に将来、かなり有効な治療法が出たとして、古い保険ではその治療が支払い対象外になってしまう。そんなことも起こりえるのです。
そのような時、貯蓄型のがん保険では身動きが取れなくなってしまうのです。
がん保険の目的は、がんになった時の保障を受けるためであり、貯蓄とは切り分けて考えた方が良い気がしています。
但し、これも筆者の個人的な見解です。
軽い掛け捨てか、重い貯蓄型か、この判断も人それぞれです。
本日のコラムでした。
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【筆者紹介】
加藤 圭祐
株式会社あおばコンサルティング 代表取締役
1級FP技能士・宅建士
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